大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和50年(ヨ)617号 決定

債権者 神戸合同労働組合

右代表者執行委員長 平井尚志

右代理人弁護士 佐伯雄三

同 藤原精吾

同 前哲夫

同 井藤誉志雄

債務者 神港精機株式会社

右代表者代表取締役 高橋安

右代理人弁護士 田島実

主文

一  債務者は、債権者が左記事項につき昭和五〇年一二月二二日付で申入れた団体交渉に誠意をもって応じなければならない。

債務者および東亜電機工業株式会社の合理化に伴う東亜電機工業株式会社従業員組合員の身分その他の労働条件の件

二  申請費用は債務者の負担とする。

理由

第一申請の要旨

債権者の組合員である前本晃、稲岡新太郎、上野俊二、松尾清司、古賀トシエは、東亜電機工業株式会社(以下東亜電機という)の従業員である。東亜電機は、電気機器等の製造販売を主たる目的とし前記組合員はいずれもその業務に従事する技術者である。債務者は、真空ポンプ、電気機器等の製造販売を行う会社であるが、東亜電機とは役員構成や資本構成のうえで密接な関係がある。すなわち、債務者の代表者は藤高六助と高橋安であり、昭和五〇年一二月五日までは東亜電機の代表者は高橋安で監査役は藤高六助であった。又、東亜電機の資本構成も同年一〇月頃までは藤高六助と高橋安とが各半分ずつ株式を所有していたがそれ以後両名の持株は各四分の一ずつとなった。そして、前記組合員の採用は債務者の人事課で債務者の人事課長の面接のうえ決定され、労働条件についても一部を除き債務者の就業規則に準ずる扱いであり、これら組合員は、債務者の工場で債務者の従業員とともに債務者が東亜電機に発注した電気機器等の製造に従事し工場における指揮監督はすべて債務者の管理職によってなされてきた。東亜電機の経理もすべて債務者が処理し、これら組合員の給与も債務者の経理課から支払われる。

東亜電機は、電気機器の製造販売以外に映写機や家庭用浴槽のふたの製造販売も業とするが、前記組合員らは、古賀トシエを除いては専ら電気機器の製造に従事し、従って、これら組合員にとってはその労務関係において対債務者との関係がすべてであり、債務者は、これら組合員の労働条件を左右するなど労働関係上の諸利益に対し実質的な影響力や支配力を及ぼしうる地位にあるから労組法七条二号の使用者である。

債務者は、その神戸工場を閉鎖しようとしているが、債権者は、その件に関し債務者に対し再々団体交渉の申入れをしたところ、債務者は、使用者でないという理由で拒否し続けている。もし、神戸工場が閉鎖されると前記組合員らは忽ち職を失うことにもなりかねないので債務者に対し主文第一項記載の事項につき誠実に団体交渉に応ずることを命ずる仮処分決定を求める。

第二決定理由

一  一件資料によると次の事実が認められる。すなわち

前本晃は昭和四八年二月、稲岡新太郎は昭和四五年一一月、上野俊二は昭和四八年一月、松尾清司は昭和四七年二月に東亜電機に入社した債権者の組合員である。右組合員らは採用に際しては債務者会社の人事課において面接をうけ、前本は入社と同時に債務者会社より「神港精機株式会社電機部技術課」と肩書のある名刺を作成交付をうけている。

東亜電機の業務は、1債務者の発注にかかる電気機器、光学機械の製造、2映写機の製造修理、3家庭用浴槽のふたの製造(但しこれは昭和五〇年以降)が主たるものであり、右四名の組合員はいずれも専ら1の業務に従事している。その勤務状態は、例外的に仕事を東亜電機の工場に持帰ってする場合を除き常時債務者の神戸工場に出勤し、同工場にはこれら組合員のためにタイムカードが備付けられている。右組合員らは、債務者の神戸工場管理職の指揮監督のもとに債務者から東亜電機に対し発注された電気機器や光学機械の設計、組立配線等の仕事をするほか、昭和五〇年一月以降債務者神戸工場閉鎖の方針が打出される債務者の電機部門労働者が合理化により約半数になった穴埋めとして上野俊二、松尾清司、稲岡新太郎らは組立配線の仕事を同年一〇月末頃まで債務者の神戸工場内でしてきた。

右認定事実によると、右四名の組合員は、債務者との間に労働契約を結んではいないが、債務者は、右組合員らの労働関係上の諸利益になんらかの直接的な影響力や支配力を及ぼしうる地位にあるものとして不当労働行為制度上の使用者ということができる。

二  団体交渉を不当に拒否した使用者に対し裁判所が仮処分による救済を与えることができるか否かについては積極消極の両説が対立しているが当裁判所は積極説をとる。

労働組合は本来個々の労働者のおかれた弱い立場を克服し実質的にも使用者と対当の立場に立って労働条件についての取決めを行うために生まれてきたものであり、団体交渉が労働者団結の中心に位する。団体交渉権の保障は歴史的な沿革からしても、また団結権の論理構造からしても、単に国家からの自由を意味するものではなく、またその拒否が使用者に不法行為責任を発生せしめるという意味での公序を形成するというにとどまるものでもない。労働者団結と団結目的に関連して対向関係を有する使用者に対しては、法的義務として団体交渉に応ずべきことを請求しうる具体的な権利が団体交渉権において保障されている。国が労組法において使用者の団交拒否につき労働委員会による救済手続を設けているのは、団体交渉権の保障をさらに具体化するための政策的な援助にほかならず、これをもって実体法上の団交権を制約するものとはなしえないと解するからである。

三  一件資料によると、債権者は、昭和五〇年一二月二二日付で債務者に対し「債務者の合理化によって生じる債権者の組合員の身分、労働条件について」団交を申入れたが債務者はこれを拒否したこと、そして、右団交が直ちに行われなければ債権者の組合員の権利が著しくそこなわれることが認められる。そうすると、債権者の申請は理由があるから、保証を立てさせないでこれを認容し、申請費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のように決定する。

(裁判官 山田鷹夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例